大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7513号 判決 1963年5月31日

主文

一、引受参加人は原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡し、且つ昭和三四年五月一二日から同年八月末日まで一ケ月金二八、〇〇〇円、同年九月一日から同三五年八月末日まで一ケ月金三四、〇〇〇円、同年九月一日から右明渡ずみまで一ケ月金四一、〇〇〇円の各割合による金員を支払え。

二、原告(反訴被告)のその余の本訴請求および被告(反訴原告)の反訴請求を、いずれも棄却する。

三、訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを二分し、その一を原告(反訴被告)、その余を被告(反訴原告)および引受参加人の各負担とする。

事実

第一、本訴における当事者の申立

一、原告 左記判決および仮執行の宣言。

(一)  被告および参加人は、原告に対し、別紙目録記載の建物(以下、本件建物という)を明渡し、且つ各自、昭和三四年五月一二日から同年八月末日まで一ケ月金二八、〇〇〇円、同年九月一日から同三五年八月末日まで一ケ月金三四、〇〇〇円、同年九月一日から右明渡ずみまで一ケ月金四一、〇〇〇円の各割合による金員を支払え。

(二)  被告は原告に対し、昭和三一年九月二九日から同三二年八月末日まで一ケ月金二万円、同年九月一日から同三三年八月末日まで一ケ月金二四、〇〇〇円、同年九月一日から同三四年五月一一日まで一ケ月金二八、〇〇〇円の各割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告および参加人の負担。

二、被告および参加人 いずれも左記判決。

請求棄却、訴訟費用は原告の負担。

第二、反訴における当事者の申立。

一、反訴原告 左記判決。

(一)  反訴被告は反訴原告に対し、本件建物につき、所有権移転登記手続をせよ。

(二)  訴訟費用は反訴被告の負担。

二、反訴被告 左記判決。

請求棄却。訴訟費用は反訴原告の負担。

第三、本訴における当事者の主張。

一、原告の請求原因。

本件建物は、原告が昭和二九年六月頃、当時その敷地上に存在した旧建物(木造トタン葺平家建店舗一棟、建坪七坪)を佐藤栄一から買受けて、直ちにこれを取りこわし、新築に着手し、同年七月末頃完成して、原始的にその所有権を取得したものである。しかるに、被告は、なんら正当の権原なく本訴提起以前から本件建物を占有し、参加人は同様、昭和三四年五月一二日から被告と共に右建物を占有している。

よつて、原告は、(イ)被告および参加人に対し、所有権に基き、本件建物の明渡を求めると共に、共同不法行為による損害賠償として、各自、右共同不法占有開始の日である昭和三四年五月一二日以降右明渡ずみまで、請求の趣旨第一項のように、毎月各賃料相当の割合による損害金の支払を求め、(ロ)更に被告に対しては、本件建物の単独不法占有による損害賠償として、本件訴状送達の翌日である昭和三一年九月二九日以降同三四年五月一一日まで、請求の趣旨第二項のように、毎月各賃料相当の割合による損害金の支払を求める。

二、被告および参加人の答弁および抗弁。

(一)  答弁。

1、請求原因事実中「昭和二九年六月頃、本件建物の敷地上に原告主張の旧建物が存在し、その後これが取りこわされ、そのあとに本件建物が新築されて、同年七月末頃完成したこと。および被告が本訴提起以前から本件建物を占有し、参加人が昭和三四年五月一二日から被告と共に右建物を占有していること。」は認める。しかし、その余は全部否認する。

2、本件建物は、次のように、被告が原始的にその所有権を取得したものである。すなわち、原告は昭和二八年八月頃、被告と婚姻の予約をなし、同二九年四月頃婚姻しようとしたところ、その後都合によつてこれを延期したため、右婚姻をするまで被告をして理髪店を経営させることになり、同二九年五月頃被告名義で約二〇〇万円の銀行預金をなしたうえ、右金員により。前記旧建物を買受け、同年六月頃これを取りこわし、直ちにそのあとに被告をして建物を所有させるため、鈴木仙吉と本件建物の建築請負契約を締結した。(第三者のためにする契約)そこで、被告は同年七月末頃、右建物の建築完成と同時に鈴木に対し受益の意思表示をして、これが所有権を原始的に取得した。そして、次来、本件建物に居住して理髪業を営んでいる。

(右主張に対する原告の異議)

右主張は、被告が訴訟の完結を遅延するため、故意または重過失により、時機におくれて提出した防禦方法であるから、却下を求める。

(二)  抗弁。

1、仮に、原告が本件建物の新築完成と同時に、原始的にその所有権を取得したとしても、原告は直ちに右建物を被告に贈与したから、爾後、同建物につき所有権を有しないものである。

2、仮に右主張は認められないとしても、被告は原告から、本件建物を、その竣工と同時に、左記約定で、無償で借受け

(イ) 期間―終生、少くとも原告と婚姻するまで。

(ロ) 目的―被告の居住および理髪業のため使用すること。

その頃、同建物の引渡を受けた。(使用貸借)

三、抗弁に対する原告の答弁および再抗弁。

(一)  贈与の抗弁に対し、

右贈与は否認する。

「再抗告」

1、仮に原告が被告に対し本件建物を贈与したとしても、右贈与は無効である。すなわち、原告は被告と昭和二九年二月頃、知合い、間もなく肉体的関係を生じたが、被告は原告に妻子があることを知悉していながら、その後毎月原告から相当の生活費を受け、妾関係を結んだ。そこで原告は被告の希望により、右妾宅とするため、またゆくゆくは原告の妻と離婚し、被告と同居するため、本件建物を建築して、これを被告に贈与した。したがつて、右贈与は右妾関係と不可分またはこれに附随するものであり、且つ原告の妻を離婚しようとする不法な目的を包含するものであるから、無効である。(民法第九〇条)それゆえ、本件建物の所有権は依然として原告にある。

2、仮に右主張が認められないとしても、本件贈与は書面によらない贈与であるから、原告は本訴第一七回口頭弁論期日(昭和三六年二月二三日)において、被告に対しこれが取消の意思表示をした。したがつて、本件建物の所有権は同日原告に復帰したものである。

(二)  使用貸借の抗弁に対し、

右使用貸借は否認する。

「再抗弁」

1、仮に、原告が被告に対し本件建物を無償で貸与したとしても、右使用貸借契約には、本件建物の返還の時期も使用・収益の目的も定められていなかつたから、同契約は昭和三一年九月二八日、本件訴状の送達により終了した。

2、仮に、右使用貸借契約に期間の定めがあつたとしても、それは原被告の前記妾関係存続中という約束であつた。ところが、右妾関係は昭和三〇年一二月頃解消した。したがつて、本件使用貸借契約は、その頃期間満了により終了したものである。

3、仮に、右使用貸借契約に期間の定めはなかつたが、使用・収益の目的はあつたとしても、右目的は被告が本件建物を妾宅として使用し、且つ同所で理髪業を営むことにあつたところ、被告は原告の妾として本件建物に居住してから毎月金二万円の生活費を受け、また右理髪業を開始以来その収入全部を同女が取得しいずれも本訴提起当時までに満二年以上を経過していたものであるから、既に当時、前記使用・収益をなすに足る相当の期間を経過していたものである。したがつて、本件使用貸借契約は前記訴状の送達により終了した。仮に本訴提起当時、右相当の期間を経過していなかつたとしても、被告が本件建物で居住および理髪業を開始以来、満三年または満四年を経過した昭和三二年七月末日または同三三年七月末日には、右相当の期間を経過したものというべきである。したがつて、本件使用貸借契約は右いずれかの同日、終了した。

四、再抗弁に対する被告および参加人の答弁および再々抗弁。

(一)1、贈与に関する再抗弁1に対し、

右再抗弁事実は否認する。

「再々抗弁」

イ、仮に本件贈与が民法第九〇条により無効であるとしても、原告は既に右贈与契約の履行として、本件建物の所有権を被告に移転する物権行為をなしているところ、右所有権移転行為は物権行為の無因性により、原因行為である贈与の効力に影響されず、かつまた物権行為は倫理的に無色なものであるから、本件贈与が無効であるとしても、直ちに右所有権移転行為まで無効となるものではない。したがつて、本件建物の所有権は依然として被告にあり、原告には復帰していない。

ロ、仮に右主張が認められず、本件建物の所有権が原告に復帰したとしても、本件贈与は不法原因給付であるから、原告は民法第七〇八条により本件建物の返還を請求できない。(同条は単に不当利得返還請求の場合のみならず、所有権に基く返還請求の場合にも適用せられる。)

2、同2に対し、

「本件贈与が書面によらない贈与であること。および原告の被告に対する右贈与取消の意思表示の点」は認める。しかし、その余は否認する。

「再々抗弁」

本件贈与は、原告が右契約成立と同時に、被告に対し本件建物の引渡をなし、既にその履行を終つていたから、前記取消の意思表示は無効である。

(二)  使用貸借に関する再抗弁に対し、

右再抗弁は、いずれも争う。

五、再々抗弁に対する原告の答弁。

いずれも争う。

第四、反訴における当事者の主張。

以下、反訴原告(本訴被告)を被告、反訴被告(本訴原告)を原告という。

一、被告の反訴請求原因。

本件建物は、被告が、原告の前記第三者のためにする契約により、原始的にその所有権を取得し、仮に然らずとしても、同建物の新築完成と同時に原告から贈与を受けて、これが所有権を取得したものである。(本訴請求原因に対する答弁および抗弁参照。)

ところが、本件建物には、原告名義で所有権保存登記がなされている。

よつて、被告は、真正の所有者として、原告に対し、被告のため本件建物の所有権移転登記手続をなすことを求める。

二、原告の答弁および抗弁。

(一)  答弁。

1、反訴請求原因事実中「本件建物に、被告主張の登記があること」は認める。

しかし、その余は全部否認する。

2、本件建物は、原告が原始的にその所有権を取得したものである。(本訴請求原因参照)

(二)  抗弁。

本訴における再抗弁(第三、三(一)、1、2)のとおり。

三、抗弁に対する被告の答弁および再抗弁。

本訴における再抗弁に対する答弁および再々抗弁(第三、四、(一)、1、2)のとおり。

四、再抗弁に対する原告の答弁。

右再抗弁はいずれも争う。

第五、立証(省略)

別紙

目録

東京都台東区御徒町三丁目八八番地

家屋番号、同町八八番の一三

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅兼店舗一棟

建坪 八坪七合、二階八坪七合

(但し、実測建坪一〇坪二合六勺三才、二階 九坪三合三勺)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例